あじさい

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私は……、唇に温かくて柔らかな感触を感じて目を開いた……。 ゆうくん……? ぼやけた視界がハッキリとすると、そこには、私を熱い視線で見下ろす健治くんの顔があった。 キス……。 彼は「ごめん」と言って立ち去ろうとする。 「待って行かないで」 心から出た言葉だった……。 「今のキスじゃ、ちゃんと健治くんの事見てないから嫌でしょ。」 これも、心からの言葉だった……。健治くんが愛しくて仕方なかった。胸が締めつけられる様に苦しかった。 「もう一度キスして。今度はちゃんと貴方を見ているから」 私達はもう一度キスをした。 温かい唇が触れ合うと、心と体にも温かさが浸透するような心地よさがあった。 呼吸の度に離れては優しい吐息が口もとを撫で、そしてまた、柔らかな唇が体の隅々まで熱を与えてくれる。 彼の愛のこもったキスに、心と体が満たされていく、そんな気がした。 名残惜し気持ちを胸にキスは終わりをむかえた。 そして彼は優しい笑顔で私に語りかけた。 「ゆかさん、夏休みの旅行、俺の代わりにちゃんと行ってください。最後まで生きる事を頑張って下さい。それが、俺の願いです。」 それじゃあ、と言って私から去っていく彼を「行ってらっしゃい」と言って私は見送った。 * * * * *  今朝もゆうくんはノートを持ってきてくれた。大学での他愛ない話をしてくれる彼。 私は彼を騙して、しかも、浮気までして、本当に酷い女だ。ゆうくんごめん。残された時間頑張って生きるから……。 そして、健治くんありがとう、そして、さようなら。
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