DREAM

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だけど抜け出してきたのバレたら怒られるかな… はあ……せっかくのクリスマスなのに。 またひとつ溜め息が紺色の空に消えた。 「溜め息ついたら幸せ逃げていきますよ。」 「っ誰、」 後ろから声がして驚いて振り返ると、背の高い男の人がポケットに手を突っ込んで立っていた。 「寒いでしょう。」 私の質問には答えないで、彼は自分が着ていた黒のジャケットを私の肩にかけた。ほんのりと体温が移る。 「あなたは寒くないの?」 「俺は平気です。」 同じように手すりに体重をかけて夜景を眺める彼は、スタイルも良くてモデルさんみたい。 声の感じから、たぶん若い。 このビルはパパの会社のものだから誰でも入れる訳じゃない。 つまり、パーティーに参加している人のはず。顔はよく見えないけど、こんな人いたかな… 「…あなたは?」 「あの辺にある会社の社長の息子。」 「名前。」 「…海。」 「海さんはどうしてここにいるの?」 「んー、たぶん美桜さんと同じです。」 「どうして私の名前…」 「知らない人の方が少ないんじゃない?」 そういうものなのか。 知らない人に自分の名前を知られるって、ちょっと怖い。 バレないように少しだけ距離を取ると、彼はクスクス笑いだした。 「怪しいもんじゃないですよ。」 「十分怪しいわ。顔もよく見えないし。」 「じゃあ明るいとこ行きましょうか?」 「自分の顔に自信があるのね。」 「自信はないですけど、美桜さんに安心してもらえるなら。」 暗闇の中で紳士のように手を差し出されて、一瞬迷ったけど手を取った。 大きくて骨ばったその手は男の人のもので、ほんの少しときめいてしまった。 しかしそれも束の間、一瞬目の前が真っ暗になったかと思ったら、私は大きなネオンの看板の前に立っていた。 遥か下に目をやると、車や人が忙しなく行き来している。 「ちょ、ちょっと待って、意味がわからない。」 どうやら私の頭はイカれてしまったようだ。 さっきまで赤坂のビルの屋上にいたのに、今は渋谷駅前のビルの上にいる。 そして風が吹くと今にも落っこちてしまいそうで、怖くて海さんにしがみついた。 「顔、よく見えるでしょ?」 バカじゃないの?と反論する為に顔を上げたら、やっと見えた。 ブルーのネオンサインに照らされた彼は非常に端整な顔をしていた。 はっきりとした目鼻立ちはエキゾチックというか…正直めちゃくちゃかっこいい。 そして私の心臓もさっきからドキドキ言いっ放しである。          
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