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さすがに彼も危ないと思ったのか、私の手を引いて大きな看板の裏へと足を進める。
未だに全てが理解できなくて、前を歩く彼の背中に話しかける。
「私、死んだの?」
「いいや、生きてる。」
「…もしかして、海さんは人間じゃないとか?」
「人間だよ。」
「どうやって、ここに来たの?」
「んー、瞬間移動、みたいな?」
私の質問攻めに首を傾げて言う彼は、ぐーっと伸びをしている。首を傾げたいのは私の方である。
「ちょっと、本当に意味がわからない。」
「そんな、何も難しく考えなくていいんだよ。ただ瞬間移動して渋谷に来ただけ。」
「……余計に混乱する。」
彼は笑い上戸なのか、ケラケラ笑いながら私の頭を撫でる。
「どうやって帰るの?」
「心配しなくても2秒で戻れる。抜け出したかったんでしょ?」
「でも、バレたら…」
「その時は一緒に怒られてあげる。」
海さんが私と目線を合わせて優しく微笑むせいで、ぶわっと顔に熱が集まる。
そんな私の反応を楽しむかのように、わざと顔を近づけてくる彼は本当にずるい。
「やっぱり海さんは人間じゃないんだよね?分かった、ロボットね。猫型でも青くもないけど、本当は未来からやってきたんでしょう?」
「…人間だってば。」
「証拠は?」
証拠ねえ、と呟いた彼は数秒考えた後、私の腰をぐっと引き寄せて触れるだけのキスをした。
一瞬何が起こったか分からなくて固まっていたら、また唇を奪われてしまった。
「ね、人間でしょ?」
「……ファーストキスだったのに…」
初めてのキスは絶対に好きな人と!って決めてたのに、この得体の知れない男にアッサリと奪われてしまった。
しかも二度。私の大切なものを…悲しくてもう何が何だか分からなくて、じわりと涙が滲む。
「えっ?…ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど、」
「…じゃあどんなつもりでキスなんてするのよ!海さんの変態!ばか!変態!」
「ごめんって。」
狼狽える彼に背を向けて階下へと繋がる階段を探す。
待って、と聞こえるけど誰がお前なんかを待ってやるか。
まだ会って1時間も経ってないのに、もう振り回されるのはたくさんだ。
「待って、」
「やだ、離して。」
「離さない。」
掴まれた手を引かれて、ぎゅうと強く抱きしめられたら私の涙は止まった。
ものすごく悔しいしむかつくけど、心は正直なのか、この暖かさに何故だかキュンが止まらない。
「…会いたかった。」
「意味分かんないよ。…あなたは誰?」
「未来の旦那さん。」
「こんな時にまで冗談を言うの?」
「ほんとだって!」
「そんなの信じられるわけない。」
「美桜さんが言ったんだよ、未来から来たんでしょって。」
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