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ショートカットの黒髪にぱっちり二重まぶたの、パーカーを着た小柄な女性が、たくさんの荷物を積んだシルバーの普通車を走らせる。
彼女の名は佐藤奈美今年で24になる。
奈美は新しい住処がある静蔓という集落に引っ越している最中で、今は最後の荷物を運んでいる。引越業者に頼みたかったが、今の彼女には雀の涙程度の貯金しかないため、自分で荷物を運んでいるのだ。
もう少しで引越が完了するというのに、奈美は浮かない顔をしている。
「家具付一軒家で格安なのはありがたいけど、大丈夫かなぁ……」
ぽつりと呟き、ため息をついた。
実は彼女、半年程度とはいえ、葬儀屋に勤めていた時期がある。その時教育係の先輩から、不吉な噂を聞いていた。
「静蔓っていう集落のご遺体って皆首吊り死体なんだよね。そういう掟だっていう噂なんだよ」
この事を思い出したのは契約し終わってからの事で、後に引けなくなってしまったのだ。
「ま、まぁ……。所詮噂だし、ハイテクなこの時代にそんな古臭い場所、あるわけないじゃん」
奈美は自分に言い聞かせるようにしながら、集落の家に行った。
集落に着くと、奈美は庭に停車して荷物を家の中に運ぶ。
新しい住処は築2年の小綺麗な平屋で、黄色に近いクリーム色の可愛い外壁に、ブラウンの三角屋根だ。
家具付で風呂とトイレは別、台所と寝室、それとリビングの他にひと部屋ある。この好条件で、家賃は2万円弱と破格である。
奈美は家の中にすべての荷物を移すと、寝室へ行ってベッドに寝転んだ。掛け布団は白地に緑葉のイラストが描かれている可愛らしいデザインで、枕も黄緑色だ。
このベッドも備え付けのもので、彼女が初の入居者なため、綺麗なものである。
カジュアルな家の外観や設置済みの家具は、“集落”という古めかしい言葉と無縁な気がする。
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