集落暮らし

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奈美が天井を眺めてぼんやりしていると、インターホンが鳴った。 「誰だろ?……はーい、今行きまーす」 奈美は声を張り上げると、玄関へ小走りした。 玄関を開けると、背の高い老人が立っている。 「村沢さん、どうしたんですか?」 老人の名は村沢敏夫。70過ぎだが、ピンと伸ばした背筋とシワの少ない優しそうな顔で、もっと若く見える。彼はこの集落の村長だ。 「お疲れのところすいません。この集落に住むのに、守っていただきたい事柄がありまして。いやはや、越していただく前に話すべきでしたが、歳のせいかすっかり忘れてしまいまして……。今、お時間よろしいですかな?」 (どうしよう、まだ荷物積んだままだよ……) まだ荷物を運び終えたばかりで、箱が積み上がった部屋に通すのは抵抗があった。 「すいません、部屋が散らかってるというか、人をあげられる状態じゃなくて……」 「いやいやとんでもない。うら若き乙女のお宅に、このような薄汚い爺があがろうなど思ってはおりませぬよ。私の家に御足労いただけたらと思うのですが……」 敏夫は奈美の顔色を伺うように、言葉を切る。 「分かりました、お邪魔させていただきます」 奈美は内心ホッとしながら、パーカーのポケットから家の鍵を取り出した。 「では、こちらです」 敏夫はくるりと背を向け、家から出る。奈美もお気に入りの黄色いスニーカーに足を突っ込むと、鍵を閉めて彼の後についていく。 敏夫の家は、集落の最奥にある瓦屋根の平屋だ。契約をする前に一度だけ来たことがあるので、覚えている。 キョロキョロしながら敏夫の後をついていくと、おかしなものを見つけた。 「あれ、なんですか……?」 奈美の指した先にあるのは、滑車のついた鳥居。滑車の真下には、積石で出来た台がある。 (まさか、あれで人を……?私、余計なこと言っちゃったかな……) 奈美は敏夫に聞いてしまった事を、後悔した。
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