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 二〇一三年、春。  細かく織り込んだ黒繻子(くろしゅす)に綿を固く詰めた小さな枕。  当時の僕は香など焚きはしなかったが、仄やかな真那(まな)の香りがあたりに揺蕩う。  語るに及ばず、清浄と畏敬をもって主を迎えるために添えられた、作り手の心である。  霖雨の続く晩春の日だった。  その刀枕に、大小合わせて三口の刀身が並んで横たわっている。精錬から数百年を経た炭素鋼の表面はどれも様々に黒く、白く、または赤茶色に曇っている。  僕は刃たちの正面に構えて座し、深く静かに礼をした。
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