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白く曇った平造りの短刀を手に、キッチンへ向かう。
玄関から部屋へ至るまでの廊下も兼ねているフロアは作業場と化していて、足の踏場は慎重に探さなければならない。
バケツ一杯の水を汲み、適量の炭酸ナトリウムを加える。
それらが溶け切って水のpHが安定するまで、先々日から続けている刃引の用意に取り掛かった。
浅い白磁器には、数々の灰色の小さい石板を盛ってある。漆を染ませた吉野紙で裏打ちした、内曇砥の木端だ。
その中の一枚を取り出して表面をじっと眺める。そうして堅さの目算を着け、巣や異物の混淆がないか注意深く確認してゆく。
面取りした親の内曇砥の塊に先ほど作った水を垂らし、木端をしばらく擦り合せる。
刀身の重ねにも満たない薄い板が熱を保ちはじめる頃、水は灰色の砥垢を湛えて粘り、砥石の表面を満遍なく覆う。
フロアへ座し、擦り込むように刀を引いていくと、砥垢は瞬く間に緑がちになり、鉄の臭気を放った。
内曇砥はごく弱い酸化作用をもち、初めは鋼の表面を全体に白く曇らせる。細かく柔らかい石肌は、やがて地鉄の折り返した鍛えを彩り、刃に潤んだ艶を取り戻してゆく。
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