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 身幅、重ねともに控えめな姿で砥ぎ減り少し。鋩子(ぼうし)は浅く返り、刃文は小乱れ。  反りの無い典型的な懐刀だ。  淡々と焦らず刃引を進めてゆくと、徐々に鋼のもつ見所の輪郭が濃くなってくる。  ぼうっと浮かび上がる小沸(こにえ)出来の刃淵には華やかに金線がかかり、地鉄は小目だが、物打ちのあたりに目立つ鍛え割れがある。  (ホオ)の木の簡素な休め鞘に収まったこの刀は、仕入れた時は黒錆が刃を斑らに覆っていた。大部分はいわゆる四酸化三鉄で、水分や塩の付着による錆ではない。  それに対して、浅く下がる(やすり)がかかった振袖の(なかご)には酸化第二鉄の橙色が散っている。  僕はこのように推測する。  節目あるごと、律儀に刀身へ油を引かれていたが、何かの理由でそれが行われなくなった。  長らく蔵や押入れへ仕舞い込まれ、篭る湿気を吸ってゆく。そうして、古い油が引かれたままの刃には黒錆を、そうでない茎には赤錆を生じたのではないか。  曰く、初出(うぶだ)しで無銘ながら賀州國宗の識と。  だが骨董屋の云うことなどは須らく如何物(いかもの)で、半ば口伝をでっち上げて売っているようなものと諒解している。  僕には、いまここに在るもののほか、興味はない。そのはずだが。  純白の卯木(ウツギ)が眼も綾に咲き誇り、憂い匂いを纏いながら静かに坐す見知らぬ女性の姿を、瞼の裏に思った。
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