「日用品」「音楽」「猫」

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「日用品」「音楽」「猫」

 白い指が鍵盤を撫で、最後の一音を伸びやかに奏でる。音に合わせて、彼女は喉を震わせ、おとがいを上げていきながら高く響く声を紡いだ。 「――――!」  音の余韻を楽しむ様に、ゆっくりとおとがいを下ろした少女――ファルは、ピアノの前に座ったままこちらに向き直ると、長い金髪を揺らしながら、蒼い瞳に不安を湛えて問いかけてきた。 「ユアン、どうだったかな?」 「どうもこうもねぇ。凄ぇよ」   入り口の木戸の前に立って演奏を聞いていた青年――ユアンは感嘆に震える声で答えた。同時に、彼女がこの貧しい村に帰ってきて以来ずっと思っていたことも頭を掠め、溜息混じりに言葉を続ける。 「やっぱり領主様のご厚意に甘えて王都の音楽学校に通い続けるべきだよ。お前も見ただろ? お前を送って来てくれた領主様の寂しそうな顔。おまけに、歌う事と奏でることは止めないで欲しいって、こんな村に似つかわしくないピアノまで置いていくし……」   何より―― 「お前、宮廷楽団への推薦も決まってたんだろ? それを――」 「それはもういいの。こんな可愛いコーラス隊もあっちには居なかったし」     
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