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ファルはいつの間にか集まっていた野良猫の一匹を抱き上げると、膝の上に乗せて優しく撫で始めた。
「それに、音楽はここにも沢山あるよ?」
「例えば?」
納得がいかずユアンが仏頂面でそう問うと、ファルは小さな笑みを漏らした。
「例えば、朝の水汲みに行くじゃない? そこに桶を落とすとね、水が弾ける音がするでしょ? それを聞くと、今日も一日頑張ろうって気分になるの。いつも使う日用品の中にだって沢山の音があって、その音に何かを感じれば、それは立派な音楽だって私は思うから」
「はぁ……そんなもんか?」
「またリアンはそんなこと言う。ずっと一緒の村で育って来たんだからそんなこと言わないで欲しいなぁ……」
「ずっと一緒って……まぁ、お前の種まき歌がたまたま領主様に認められて王都に行ってる間以外はな」
「言ってる傍からまたそんなこと言う……」
口調では不満そうなファルだったが、表情は楽しげな笑みだ。
ユアンはそれに溜息を漏らす。
「で、実際のところはどうなんだよ」
「うーん……私が好きな音楽がそこには無かったからかな?」
「それってどんな音楽なんだよ?」
地位も名誉も蹴ってでも聞きたいと言う音楽にユアンは興味を抱いた。
するとファルは猫を撫でていた手を左胸に当て、ユアンをじっと見つめながら言った。
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