それは名前もない何も意味などない

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 男は机の上に手紙を放り出した。そして台所へと向かうと冷蔵庫を開けた。牛乳を取り出すと一気に飲み干した。  男にはやらなければならないことがたくさんあった。  卒論。  レポートも()まっている。提出期限はいつだったか。  小説の締め切りももうすぐだった。どうせまた落選だろうと(たか)(くく)っている。  そうして、就職活動も行わなければならなかった。  こんな手紙をいちいち読んでいる暇など男にはないはずだ。大体、こんな意味のわからない手紙、わざわざ読む必要などないのだ。  自分は忙しいのだ。そう、忙しい。けれど何一つ片付いちゃいない。一体、どれだけのモノを投げ出してしまっているのか。男には、それすらわからなかった。  と、電話のベルが鳴った。  取りに行きかけたところで留守電に切り替わったのでそのまま(きびす)を返す。  机に放り出した手紙の内容は。意味のないことばの羅列(られつ)。日常生活に(あふ)れ出して(こぼ)れ落ちそうなほどのことばの数。  ちょっと待てよ、と男は思った。  手紙を手に取ると冒頭(ぼうとう)から読み出した。声に出して読み出した。  ――なんだ、うん、おもしろいじゃないか。面白い!  暇、じゃないけど、アイディアは何も出てこない。 そんな時は何か別のモノに目を向けてみる。意味のないモノに。意味を求めないから。     
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