それは名前もない何も意味などない

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 ()()えず机に向かってみたが、全く思いつかない。  ……手紙。  ――頭を()()えてみよう。  全く違う、全く意味のないことに。  ことばの羅列(られつ)。  手紙を書こう。  便箋(びんせん)に、一文字一文字、丁寧(ていねい)に、心を込めて。  それでも無意味(むいみ)なことばの数々。  差出人は記入せずに、誰かに送り付けよう。男はそう考えた。  ――そうだ。明日、朝一番に速達で出しに行こう。  送り付けられた(ヤツ)はさぞ迷惑に違いない。 届いた相手はこんな手紙を待っているはずなどない。それなのに(いそ)げと()かす自分がいる。  いや、この男のような(ヤツ)が喜んで読むかもしれない。  ――ま、いいや。(ひま)つぶし、(ひま)つぶし。  ――いや違う。気分転換(きぶんてんかん)に。  男は(ふたたび)び机へと向き直った。  引き出しから大量の便箋(びんせん)を取り出すと、何やら書き出した。  男は夢中になって手紙を書く。  気がつけば今日も午前様(ごぜんさま)。  手紙が届いた時点(じてん)で確か時計の針は午後一時。読み終えた時点(じてん)で外は暗くなっていた。  このところ、男は毎日そんな生活を()り返していた。寝るころになると外は(すで)薄明(うすあか)るくなっている。  何をするわけでもない。  ただ、だらだらと。  ただ、だらだらと時間は過ぎてゆく。     
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