それは名前もない何も意味などない

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それは名前もない何も意味などない

 午後一時、男はチャイムの音で目を覚ます。ドアの外に立っていたのは郵便屋で、届けられたのは差出人のない速達だった。  月末。実家からの仕送りだろうと男は「書留」という言葉を郵便屋に期待していたが、ドアを開けると郵便屋は「速達です」と告げた。郵便屋は奇妙(きみょう)な顔で印鑑を求めると、不思議そうに去って行った。  渡されたのは、実に奇妙(きみょう)な手紙。  まず、差出人の記入されてない。  そして、分厚(ぶあつ)い。封筒はやたらと分厚(ぶあつ)いのだ。  少し気味が悪い。  しかし、好奇心(こうきしん)はそれ以上に勝っていた。  男は封を開けて便箋(びんせん)を取り出してみた。  すごい量の便箋(びんせん)だ。そして、手紙の内容に目を通してみる。  男は便箋(びんせん)に目を落とすと、少しだけ手紙を読んでみた。  書かれていたのは何の意味もない、脈略(みゃくりゃく)もないことばの羅列(られつ)。びっしりと、それが何枚もに渡って書き詰められている。  男は声に出して便箋(びんせん)を数え始めた。  が、すぐに止めて残りの便箋(びんせん)をパラパラと簡単に数えた。ものすごい枚数である。小説の一本でも書けてしまう枚数であった。  最後の一枚。最後の行の最後も一文字までびっしりと書かれている。     
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