喪主の務め

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 昨日のお通夜の段階では、妙にお棺に入れることに拘っていたのに、今日になってあっさりと翻した伯母の言葉には少し面食らったが、何はともあれ本が焼かれなくなったことには、ほっとした。 「じゃあ、残してくれるの?」 「うん、やっぱり本ですものね。焼いてしまうより、人に読んで貰えるほうが良いと思ったの。あの人だってそういう使い方をした方が喜ぶと思うのよ」 「そうなんだ。良かった。やっぱりそれがいいよ、伯母様」 「美代子ちゃんのアドバイスのおかげよ。有難うね」 「ダメもとでネットオークションにでも掛けてみたら、美本じゃなくても、いくらかは値段がつくかもよ」 「お金はどうでもいいのよ。それよりも、そんな貴重なものだったらなおさら、多くの人が手に取れるようにした方が、この本も幸せだと思うの。近所の図書館にでも寄付しようかと思って」 「図書館に寄付か。なるほどね」  いかにも伯母らしいや、と思った。     
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