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「――そう言えばさ、大口様って聞いたことある?」
四月を迎えて間もない、ある夕暮れのこと。
普段から利用しているバスの中で、一人本を読んでいた俺の耳にそんな言葉が流れ込んできた。
チラリと声のした方を見れば、恐らくは新入学を迎えたばかりであろう中学校の制服を着た見慣れない少女が二人、顔を寄せ合いながら仲が良さそうに話をしている姿があった。
「知らない。何それ」
「あのね、あたしの通ってた小学校で噂になってた妖怪なの。口裂け女っているでしょ? あれと尺八様って言うのが混ざり合って生まれた妖怪のこと」
「尺八様って、確かあれだよね。二メートル以上ある大きな女の人。都市伝説の」
「そうそう。その尺八様みたいに大きくて、口裂け女よりもっと大きな口をした妖怪が、大口様。目と鼻がすごく小さくて、血で汚れた真っ赤な口が顔の半分以上を占めてるんだよ」
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