大口様

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「え、何それ恐い」 一ヶ月前までは小学生だったであろう年代らしい、微笑ましい会話だなと思いつつ、俺は本に目を戻しながらつい口元を緩ませてしまう。 自分が子供の頃にも、こういった類の噂話が一つ二つはあったように記憶している。 子供というのはいつの時代も、似たようなことで盛り上がるものなのかもしれない。 少女たちのヒソヒソ話は、更に続く。 「それでね、暗くなってから一人で外を歩いてると、突然後ろからどっどっどっ……て大きい足音が聞こえてくるの。もしそこで、何だろうって振り向いちゃうと、大口様が立っててそのおっきな口をガバァって開いて、血生臭い息を吐きながら食べて良ーい? って顔を近づけてくるんだよ」 「それで、どうなるの?」 「素直に良いよって答えちゃうと、そのまま頭から(かじ)られて殺されちゃうの。逆に、嫌だって答えると、じゃあ、誰なら食べて良ーい? って訊かれるから、そしたら誰か他の人の名前を教えるの。そうすると、大口様はその人の所へ行っちゃうから自分は助かることができるんだよ」
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