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「そんなんじゃなくて、何だかここ……すごく嫌な感じがするの。立ってるだけで落ちつかないって言うか」
「優子は初めて来たから、雰囲気に飲まれてるだけだろ」
「違くて――ひっ!」
真面目に話を聞かない彼氏に焦れながら、優子がふと赤い池へ視線を戻した瞬間、それほど大きくもない池のちょうど真ん中辺りから、まるで池の水を吸って染まったかのように真っ赤な手が、水面から突き出すようにして現れていることに気がついた。
「ね、ねぇ……あれ、あれ何?」
作り物とは思えないそのリアルさに、優子はこの池が地獄と繋がっているという話を思い出す。
人間とは思えない、深紅に染まるあの腕は、地獄から自分たちを引きずり込むために現れた鬼の手のように思え、優子の中に膨らんでいた恐怖心は一気に限界を超えて溢れてしまった。
「え? あれって、何もないじゃん。動物でもいた?」
怯える優子とは対称的に、彼氏は相変わらず呑気な声を出している。
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