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「はぁ? 池の中から手が出てるじゃない! あれ何よ!?」
――まさか、彼には見えていないの?
きょとんとしたように池を眺める彼氏は、芝居をしているようには見えなかった。
やっぱり、この場所はおかしい。早くこの場を去りたい。
その思いだけがひたすら頭の中で膨らみ続け、優子は自分一人だけでも引き返してしまおうかと決断しかけたそのとき。
チャポン……。
という、小さな水音を立てて、赤い手は水面下へ沈んでいった。
「ん? 何だろ、まさかここ魚いるのか?」
それでも彼氏には何も見えていなかったらしく、赤い手が作りだした小さな波紋を広げる水面を危機感のかけらもない顔で眺めていた。
しかし、手が消えても優子の中には得体の知れない不安と焦りが居座り、どうしてもこの場から逃げ出したい衝動だけは収まらなかった。
「あたし、もう無理。これ以上ここにいたくない」
「優子? 顔色が悪いな……ちょっと歩きすぎたか?」
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