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戻ろうと彼氏の腕を引っ張る優子の顔は、恐らく血の気が引いていたのだろう。
困惑しながら優子の顔を覗き込んでくる彼氏の背後で、また水が跳ねるような音が聞こえた。
優子が咄嗟にそちらを見れば、つい数秒前までは池の中央にいたはずの赤い手が、池の縁、自分たちのいる数メートル先に移動してきていた。
その手は、何かを探すように水際をまさぐると、そのままグゥゥゥ……と腕が伸びるようにして優子たちの方へと近づいてきた。
「――っ!!」
「あ、おい! 待てよ優子!」
もはや、悲鳴すら出せなかった。
迫ってくる赤い腕を見たと同時、優子は下草が生い茂る細い道を駆け戻りだした。
だが、走りだして僅か数秒後。
後ろから慌てたような声をかけてくる彼氏すらも無視し、がむしゃらに駆ける優子の身体が、突然何かに躓くようにして転んでしまった。
地面に顔をぶつけたが、しかし優子はそんなことを気にする余裕はなかった。
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