鬼の手

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池の方を見れば、水面から伸びてきていたはずの赤い手も姿を消してしまっている。 ――今のはいったい何だったのだろう。 錯覚とは思えない。 絶対に、自分は血を吸ったように赤い手を見たし、足だって何者かに思いきり掴まれたはずなのだ。 「優子、立てるか? 今日は一旦家に戻ろう。恐がらせて悪かったよ。ごめんな」 放心状態のまま彼氏に支えられ、その後優子は彼氏の家へと帰っていったが、この日はもう、外へ出る気分にはならなかった。 「――っていう話なんだけどさ、本当だと思う?」 一通りの話を終えると、友人は好奇心丸出しな目で俺に意見を求めてきた。 「さぁ。大体さ、地獄と繋がってる池ってのがな。あるわけないよ、そんなのは。手を見たとかは、どうだろう。そういう不思議なこともあるのかもって考えた方が面白そうではあるけど」 田舎の中だけに残る、奇妙な噂。 話の元となる出来事が何かしらあり、それが数十年の時間をかけて怪談みたいな内容へ変化しただけかもしれない。
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