鬼の手

「だよね。でもさ、優子が彼の実家から帰ってきたとき、蔓に引っかけただけの足首に痣(あざ)ができてたんだって」

「痣？」

「そう。こう、ギュッと手で強く握られたみたいな、指に似た五本の線がある痣ができてて、暫く消えなかったって。普通ならないよね、そんなこと。蔓なんて、せいぜい紐みたいな細さだし、絡まったわけでもないんだから」

ねぇ、どう思う？

再度訊いてくる友人の視線から逃れるように下を向きながら、俺は「さぁ。さすがにわかんないよ」と返すことしかできなかった。

地獄と繋がる山の池。

例え一部の人たちの間だけであっても、ずっと噂が伝えられ続ける場所というのは、何かしら人知を越えた不可思議なものが存在したりするのだろうか。

ふと、そんなことを思ったけれど、俺はそれを口に出すことはせず、冷めかけたコーヒーと共にゴクリと喉の奥へ飲み込んでおいた。