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陽にーちゃんとマネージャーさんは、比較的すぐに別れた。
陽にーちゃんが部活に専念できないという話も、マネージャーさんの心変わりという話も噂に聞いたが、真実はわからない。
私にとっては、陽にーちゃんに特定の相手が居なくなったということだけが重要だった。
靴箱を開ける。
年代物の鉄の箱はギギギっと音を立てないと動くことができず、くたびれ具合が哀愁漂う。
思わず、陽にーちゃんの靴箱に匿名のラブレターを放り込んだ時のことが頭に浮かぶ。
あの時は、この鉄の軋みのギギギより私の心臓の音の方が大きかったんじゃないだろうか。
陽にーちゃんはびっくりしただろうな。
怖がらせてしまったかもしれない。
想いがバレるのが怖くて、電話でもメールでもラインでもなく、名前を書かない手紙に気持ちを綴った。
一方で、私の字を覚えててくれて、「これ、お前だろ?」なんて言われることをちょっと期待して、またドキドキして。
バカみたい。
自分のこと、バカみたいって何回思ったことか。
でも、バカみたいって思えることすら幸せだったことに。
──気付くのが、遅かった。
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