春の日を待ち侘びて

7/9
前へ
/9ページ
次へ
 陽にーちゃんには今、彼女がいる。  朝霧香澄。17歳。  私の親友。  香澄がいつどのようなきっかけで陽にーちゃんのことを好きになったのかは、知らない。  全て終わってしまえば、確かにやたらと私に陽にーちゃんの話を聞いてきたと思うが、本当に後の祭りだ。  香澄は陽にーちゃんの受験が終わるのを待って、正々堂々と告白し、陽にーちゃんの横顔を見上げる権利を手に入れた。  幼馴染みという立場に甘んじていた、私と違って。  暖かい風が、慰めるように私の髪と頬を撫でる。  慰めなんていらない。  慰めてもらえる立場なんかじゃない。  私は散々、陽にーちゃんの優しさに甘えてきた。  きっと自分の気持ちや親友との関係や陽にーちゃんの都合を全部無視すれば、これからも居心地のよい風に吹かれていられるだろう。  でもそれじゃダメなんだ。  私は、だから今日ここに来た。  陽にーちゃんに想いを伝えて、フラれるために。  耳聡いちーこは、私の告白する相手が“私の親友の彼氏になったばかりの人”だということをもちろん知っている。  キラキラとした彼女の瞳に映る私は、どれだけ滑稽な存在だろう。  私にはそれくらいの傷が、必要なのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加