よそ見をしないで

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 和也には、いつも心にある悩みがある。それは、恋人の直哉に関するものだった。 「あ、ひっでーのママ!」  和也の恋人である直哉は、隣でカウンター越しにちゃちゃを入れてくるママにそう返していた。和也はなんともなしに、その光景を見ている。すると、直哉の肩越しにこちらを見ている二人組を捉えた。  二十歳になりたての、可愛らしい顔立ちの男の子二人だった。その二組の視線が、屈託なく笑う直哉に注がれている。かと思えば、内緒話をするように耳を寄せ合っていた。  そう、和也の悩み事とは、直哉がいつか自分を捨てるのではないかという恐怖だった。  不細工のぽっちゃり体形で、金持ちでもなく、また床上手でもない自分は直哉には釣り合わない。その低い自己評価が、自分自身を苦しめる。  二人組は何か決心をしたのか、立ちあがってこちらに近づいてきた。かと思えば、直哉に声をかける。どうやらあちらのテーブルで飲もうというお誘いだった。和也は我関せずという顔で、グラスを傾ける。 「あぁ、悪いね。連れがいるんだ」  そう直哉が言ったかと思えば、肩を抱かれた。びっくりして顔を上げれば、二人組みは邪険そうな目を和也に向ける。しかしそんなことはお構いなしに、直哉は満面の笑みで手を振ってた。それに渋々、二人組が離れていく。 「また変なこと考えたろ」  やはり和也の考えはバレていたらしい。少しばかり非難めいた目を直視できず、和也は顔を反らす。 「解りやすいんだよ。あの子たちが来た瞬間にワイン飲んだろ」 「すいません」    肩にあった手が、そのままゆっくりと昇っていく。焦らすように、ゆっくりと。首を一撫ですると、頬をつねった。小さな痛みに、顔をしかめる。 「思ってるだけじゃわかんねぇっての」  鼻先が触れるほど顔を近づけると、肩頬を吊り上げて直哉が言った。それはベットの上と同じで、和也に意地悪する時と同じ顔だ。 「ほら、言ってみろよ。こんなことで怒らねぇから」  和也はゴクリと唾を飲み込んだ。こうなってしまっては、きっとこの黒い気持ちを言ってしまうまで、解放してはくれないだろう。和也は慎重に言葉を選び、口を開く。 「お願いですから、よそ見をしないでください」
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