警笛鳴らせ

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「じゃあなんで鳴らすんだよ、って言いたそうな顔してるけど」 「なんで鳴らすのよ」 「葬式のあと、霊柩車がクラクションを鳴らすのは知ってる?」  私は無言で頷いた。 「茶碗割りの代わりとか一番鶏の代わりとか、諸説あるんだけど。結局なんでクラクションなんか鳴らすんだって言えば、弔いの表現としてなんじゃないかな」 「……弔い?」 「遺された側からすればね。出せなかったお葬式の代わりにできることがあるとすれば、これなのかなって。実際この標識が設置されてから事故も減ってきてるらしいし」  沢崎君がハンドルから右手を離す。  ―― ビーーーーーーーーーーーーーーッ。  クラクションと同時に現れた『警笛鳴らせ』が、瞬く間に後方へと流れた。 「ちなみに、この道を真っすぐ行った先には共同墓があるんだ」  さっきも白い何かが立っていた気がするが、あれは別の標識だったのだろうか。  そう思って振り返るも、先ほどの『警笛鳴らせ』以外に目ぼしいものは見当たらない。 「心配しなくても、墓を通り過ぎれば降りてくれるよ」  車のエンジン音がわずかに低くなった。 なんだか走りが少しだけ悪くなった気がする。 「できた人だよ。悪意なんてないんだ。ニコニコしながらおもちゃを買ってくれてたころと変わらない」  沢崎君が穏やかな口調で言った。  その性格を作ったのは、果たして両親だけなのだろうか。 ふと彼の幼少期が気になったが、口に出すことはためらわれた。
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