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この都市伝説の名は『エミちゃんの秘密』なのだ。
エミちゃん=井淵恵実ということは秘密というほどのものではない。
事件の詳細も、実名付きでこうして公開されている。
俺が少し調べただけで分かってしまうことばかりだ。
では、一体何が秘密だったのか。
スマホの記事を精読する。
パソコンはやはり触る気にはなれなかった。
目を閉じれば嫌でも先ほどの映像がよみがえる。
二度と思い出したくはないのに。
そうして映像の記憶と記事内容とを行き来しているうちに、ふと疑問が浮かんだ。
「……携帯電話なんてあったか?」
寝室の畳に絵本が散らばっていたのは覚えている。
寝る前に子供たちに読み聞かせたのだろうか、三冊あった。
しかし携帯電話には気づかなかった。
本当に置かれていたのだろうか。
ほかにもある。
恵実が握っていた毛髪はなんだったのか?
記事にはそのことについて一言も書かれていない。
彼女が首を吊ったことで死んだのならば、あの重力に逆らった左手はなんだというのだろう。
しかも、その後ズームしたときにあの手の位置は動いていた。
もしそれが、死んだ恵実の意思だとしたら。
あの左手にこそ彼女の秘密があるのではないか。
目を閉じて、恐る恐る思い起こす。
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