ポケットティッシュの中の闇

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 それを知ったのは、街を歩いているときのことだった。  物理が休講になり、同じクラスのヒデが遊びに行こうと言い出した。 目的はない。 ただブラブラするだけなのだが、特に予定もないので了承した。 「あれ食わねえ?」  俺がクレープ屋を指すと、ヒデは八重歯をむき出して笑う。 「あんなベタ甘なのよく食えるよな。待っててやるからお前だけ行けよ」  結局、俺ひとりでチョコバナナクレープを買った。 背を丸めて食べ始めると、ヒデが手を叩いて「似合わねえ」を連呼する。 「男がクレープ食っちゃ悪いのかよ」 「剣道部主将が真面目腐った顔で口の周りにチョコつけてるのは失望の一言だわ」  辺りを見回す。 数メートル先の歩道に、ティッシュを配っている若い女がいた。 目が覚めるようなピンク色のユニフォームを着ている。  丁度いいのでそのまま進み、まんまとポケットティッシュを貰った。 貰ったというより、有無を言わせず押し付けられたという方が近かった。 「めっちゃねじ込まれたんだけど。指と指の間のほっそいティッシュ一個分スペースに、無理やり二個だぜ」 「便利だし良いじゃん」  俺はさっそくティッシュで口元を拭う。 「そういえばさ」  軽い調子でヒデが切り出した。 「たまーに、こういうポケットティッシュって当たりがあるらしいぞ」 「なんだそれ」 「ほら、取り出し口の後ろにチラシ入ってるじゃん? これの裏に、たまになんか書いてあることがあるんだと」  言いながら、ヒデは自分のポケットティッシュから広告紙を取り出す。 「当たったらティッシュもう一個とか?」 「つくづくお前には失望だわ」  確かに、当たりがあると言われたらポケットティッシュの広告効果はぐっと上がるだろう。 「ま、クーポン程度だって当たりゃ嬉しいかもな」 「クーポンじゃねえって」  言葉を切り、ヒデはにやりと笑った。
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