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二階には一部屋しかないようだ。正面に、両開きの襖がある。
クリックすると、扉をすり抜けて室内の映像がズームアップされた。
広い畳敷きの部屋だ。
おそらく寝室だろう、畳まれた布団が、部屋の隅に乱雑に積み上げられている。
絵本が三冊散らばっていた。
左手には窓があり、その手前に鴨居がある。
そこに、三人が並んでいた。
「…………は」
声になりきれない吐息が喉の奥で潰れた。
間違いなく人だ。
逆光で薄墨色になっているが、成人女性と子供が二人、頭をそろえて並んでいる。
首吊り死体だ。
とっさにモニターから身を引く。
顔を背けたいのに、どうしてもできない。
マウスを取り落としてしまい、けたたましい落下音に身をすくめた。
左の女は四十代ほどだろうか。
舌が異様に長く、あごよりも下まで垂れさがっている。
おそらく、隣に並ぶ二人の子供の母親だろう。
真ん中の女児は小さく、大体三歳ほどではないかと思われた。
幼児特有のふっくらとした顔の下を、太い紐が細く強く締めあげている。
丸っこい体格にも拘らず首だけが細長い。
そのアンバランスさが生々しかった。
そして右端は、小学校高学年くらいの少女だ。
逆光なのでほかの二人の表情は陰になっているのにもかかわらず、彼女だけはくっきりと顔が浮かび上がっている。
零れ落ちそうなほど目を剥いていた。
大きな黒目が俺に向けられている。
けれど一目で死者と分かる、虫食い穴のような光のない目だ。
口が大きく開かれている。
中から赤黒い液体があふれて、ウサギの描かれたパジャマを染めていた。
弛緩したほかの二体に比べ、その少女の左手は重力に逆らっていた。
まるでモニターの向こうにいる俺へと差し出すように、拳を持ち上げている。
透明な液体がつま先を伝い、窓からの陰気な陽を反射していた。
それは母親と弟も同じで、浮いた足の下には三人分の水たまりができている。
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