とんでもない美形

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「おぅ…」 "事実は小説よりも奇なり"、なんて言葉は一体誰がどんな状況で放ったんだろうか。学の無い俺でも知っているどこぞの名言は、割と的を得ているんじゃないかとこの時実感した。 コンビニでのバイトが終わり、くたくたの身体で帰路につく。ようやっと自宅のアパート前まで帰って来ると、何とそこには映画でしか見たことがないような黒塗りの、俺でも分かる程高そうな車が停まっていた。 一瞬疲れが見せる幻かと思ってフリーズし、少し目を閉じてもう一度開く。しかし、やはり車はそこにある。 別に高級住宅街という訳でもない、こんな寂れた路地に明らかに浮いている高級車。その車体の長さでどうやってここまで辿り着いたんだろう。どこぞの御曹司が社会勉強でもしに引っ越してきたのか、それとも誰かが借金でも作ってそっち系のヤバい方々が迎えにでも来ているのか…。 後者の方が有り得る気がするな。どちらにせよ、厄介そうなことには関わらないに越したことはない。 そうして俺は何も見なかったことにして、アパートの入り口付近を占拠している高級車の隣を何食わぬ顔で素通りし、自分の部屋の前まで来た。 待ち焦がれた自室の前に待っていたのは、黒いスーツにサングラスをかけた、黒ずくめの男二人。 あれ、俺子供になる薬でも飲まされんのかな…。疲れた頭ではもはや現実逃避が始まっている。が、すぐに現実へと引き戻された。 「え、ちょっと、何?何?!」 男たちは俺を見つけるやいなや、有無を言わさず、といった具合で俺の腕をがしっと掴み、ずりずりと引き摺っては高級車の中へと押し込んだのだ。 「足立様。お仕事でお疲れのところ少々手荒な真似になってしまい誠に申し訳ございません。ご心配なさらずとも悪いようには決して致しませんので、暫しご辛抱を」 俺を高級車に押し込んだ男の一人が恭しく一礼し、何とも丁寧な仕草でそう告げて助手席に移った。黒ずくめのもう一人は運転席に座っている。 まさか自分が当事者だとは微塵も思わなかった俺は、突然の状況にただただ目を瞬かせるしかなかった。 え?ってか何で俺の名前知ってんだこいつら?仕事のこととかも…?言い様の無い悪寒が走り背筋が凍るような感覚に襲われて、慌てて扉を開けようとするも既に車は発車した後。
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