はじまりの日

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「あのこれ!すいません、俺のせいでっ!」 「…?」 何のことかさっぱり分からなかったが、少年が差し出してきた絆創膏を見て何となく察しが付いた。あぁ、さっきの刃物でどこか切れたのか。絆創膏に気を取られていると、目の下にするりと温かい手が伸びてきた。少年はでこぼこして気持ち悪いはずのそこにそっと手を置いて、親指で目の下を遠慮がちに撫でる。 普段なら、嫌なはずなのに。痛くはないが、決して誰にも触れさせることの無い場所なのに。何故僕は、初めて会ったはずの少年にされるがままになっているんだろう…。 けれどもそれは数秒のことで、直ぐに離された彼の親指には血が付いていた。きっと僕の血だ。痛いとかそんなことよりも、僕の血で彼の手を汚させてしまった申し訳無さが募る。 「本当は消毒とかした方が良いと思うんですけど、今これしか無くて…」 「十分だよ。ありがとう」 おずおずと渡された絆創膏を受け取って、短く礼を述べた。そこで始終を見守っていたらしい部下に声を掛けられ、我に返る。 「修二様。そろそろ」 「あぁ。すまないな」 家に帰っても、あの手の感触は消えてくれなかった。初めて触れさせた、この傷。不快になるどころか、もっと触っていて欲しいとすら思った。 真っ直ぐに僕を射抜く瞳も、悪戯に揺れる髪も、自分の方が大変だったろうに他人を気遣う優しさも。 もっと、知りたい。…欲しい。かもしれない。 目の下に貼った絆創膏をゆっくり何度も撫でながら、僕はこれからのことについて思いを馳せた。
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