とんでもない美形

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結論から言うと、すごく寝心地が良かった。 …言い訳だけでもさせて欲しい。 まず、あんな柔らかく包み込んでくれるようなシートにこの疲れた身体が抗えるはずもなかった。あんなの高級なソファーと変わらない。俺の家の安いシングルベッドに比べれば悔しいがその心地好さは尚更だ。 加えて車内に流れるクラシック調の緩やかなBGMに、どこからかふんわり香るラベンダーのような香り。更には物凄く気を遣ってくれたのか、運転はかなり丁寧で揺れで起こされるなんてことも無かった。 正直、突然高級車で連れ去られたことよりも吃驚している。…こんな状況でも寝られる自分の神経はかなり図太いんだな、と俺はもう開き直ることにした。 そうして到着した先は、これまた映画くらいでしか見たことがないような大きな大きな純和風のお屋敷であった。 「うわ…」 思わず感嘆の声が漏れる。どこまでも続く塀と立派な門構えからしてもう一般家庭のお宅でないことは明らかだ。玄関かと思われた扉が開かれると目の前には手入れが行き届いた和風の庭園が広がり、母屋と思われる建物までも結構距離があった。 母屋の玄関までには導くように石畳が敷かれていて、俺は二人の黒ずくめの男達にエスコートされて建物まで案内された。 車から降りたら隙を突いて逃げようなんて画策していた筈の俺はただただこの非日常な光景に圧倒されていて、そんな思考は何処かへ飛んでいってしまっていた。 それにしても、絶対に堅気の住まう屋敷ではない。仮に堅気の方のお家であったとしても、何とか財閥の跡取りとかきっとそんな人が住んでいるに違いない。 どの道俺とは無縁の世界だ。それなのに訳も分からぬまま突然こんなところに連れてこられるなんて、俺は一体何をしでかしてしまったというのだろうか。
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