275人が本棚に入れています
本棚に追加
「単刀直入に言う」
"とんでもない美形"野郎が話す度、僅かに顔の紙が揺れる。もういっそ引っ剥がしてやろうか。
「………はい」
「僕と結婚してくれ」
「……………はい?」
"事実は小説よりも奇なり"。本日二度目、いや三度目の衝撃である。
「実を言うときみに一目惚れした」
「………は?」
「だから僕と結婚して欲しい。今日はその意思を、君に伝えたかったんだ」
どこから突っ込めばいいのやら、俺の思考回路はまさにショート寸前である。いや、もういっそショートしてしまえば何も考えずにすむのかもしれない。
目の前に鎮座する男の顔はやっぱり何度見ても隠されていて、一切の表情を読み取ることが出来ない。従ってこの男の言うことが果たして真実なのかそれとも壮大なドッキリなのか、多少疲れが抜けた頭でも判断することが出来なかった。
しかし、ここで返す言葉はひとつである。
「あの、申し訳ありませんが、」
きっぱりお断りします。という言葉を遮って、男は続けた。
「一ヶ月」
「…は?」
「一ヶ月でいい。僕に時間を貰えないだろうか。知らない他人にいきなりこんなことを言われて、聡明なきみがオーケーしてくれるなんて浅はかなことは考えていない。せめて僕を、きみに知ってもらうための時間をくれないか」
「え、アンタ何言って…?」
いや、顔隠してるやつがマジで何言ってんだ。知って欲しいならまずそのふざけた紙を取れ。そしてツラ見せやがれ。
「きみの生活を奪いたい訳じゃない。ただ少し、時間をくれ。心配せずともきみの家には毎日専門の清掃業者が入って清潔に保ってくれるし、その間の家賃もこちらが支払う。コンビニでのバイトにも、きみの代わりにうちの者が出よう」
「は?!え、いやいやいやちょっと待って何言ってんの?!」
家に清掃業者?バイトも代わりにって、え??
最初のコメントを投稿しよう!