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18. 死者の慟哭
シ式の肩に、担架が乗せられた。
車のタイヤを収めるフェンダーのように半円状をした肩の装甲板の上に。
時は夕刻。昼の長い六月の太陽が、ようやく目の前の金輪島の向こう、稜線の影へ姿を隠そうとしている。
簡素な骨組みと共に組付けられた担架の上から、隆義は沈む夕日を眺めていた。
「……」
周りに目を向けると、部隊は移動の準備に入っている。
十トントラックと大型トレーラーには、すぐには必要でない物以外の物資を全て積み終わり、ジャグリオンと二体のシ式、そして菊花と真澄が乗る鹵獲豪攻車は、次の作戦の為に集合していた。
隆義はその列の一番端で、担架と遺体を入れる袋の様子を見る作業を終えた所だったのだ。
今は、海風を浴びながら、遠く山の稜線に没していく太陽を眺め続けている。
「ねぇ、たかよし」
シ式の中、操縦席にはきゅーちゃんが腰かけていた。
不意に声をかけられ、隆義は開きっぱなしの乗降ハッチの中を覗き込む。
「あのひとらのようすを、みにゆくことになったんねぇ」
「あぁ。教官と心のジャグリオンが、光学迷彩で姿を消せるからなぁ……」
「たかよし、ようすはみえとったんじゃけど。えいこちゃんのおとうさんの、ごいたいをとりもどすんじゃろ?」
「うん。俺と心で、遺体を回収する事になった」
隆義は周りに目を配り、その場に誰もいない事を確認すると、シ式の中へ──。
そのまま、すとんと落ちるように操縦席へ両足を下ろし、静かにハッチを閉じる。
背もたれで体を支え、自然に雪崩れるように操縦席に座る隆義だったが──「痛っ」と声を上げた。
「どしたん? うったんね?」
きゅーちゃんが慌てた面持ちで、隆義の真正面へ。
一方、隆義の方は──
「忘れてた。……教官から、これ渡されたんだった」
今の今まで存在を忘れていた──ズボンの後ろに下げた物体を、自分の顔の前に持って来る。
「それ……"ぼうどくめん"ね……」
防毒面、つまりはガスマスクである。
「かんがえごとしよって、すっかりわすれとったん?」
「……面目無い」
自分自身の悪い癖の事を思い出しながら、隆義は誤魔化すように咳払いする。
考え事の最中や集中している最中は、それに気を取られてしまいがちなのであった。
「なんでそれをわたされたんじゃろうね?」
「遺体回収する時の備えさ。臭いは防げないけど病原菌は防げるらしい……」
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