0人が本棚に入れています
本棚に追加
「XAM-85だと!? "例の事件" で強奪された機体が、どうしてここに居る!」
[西区で暴れてる連中に混じっているようだぜ──。一応、動きには気をつけてくれ]
「──解った、とにかく行動を急ぐ。オーバー」
教官は通信を切り、再び周囲を確認した。
敵影は通り過ぎた。自身が乗るジャグリオンも光学迷彩で姿を消し、周囲の闇に溶け込んでいる。
「……嫌な予感がする」
西の方角から妙な威圧感を感じながら、教官は目の前の道を急ぎ始めた。
その姿をアンブレラドローンのカメラで見守りつつ、ジジイこと義辰もまた、各個のドローンに命令を下した。
一つにはドリルサージェントこと教官に周辺情報を提供する為。
もう一つには、出撃前の隆義の頼みにより、霞中学校を偵察する為である。
視点はブルーチームに戻る。
目標地点を臨む川の対岸に着いたココと隆義だったが──。
「……」
隆義は言葉を失っていた。
それに関しては、目の前にいるココも同じだろう。
杭と有刺鉄線で急造されたフェンスに、見せしめに括り付けられた多数の遺体。
ひどい状況なのは、写真からも解っていたのだが──。
[……実際に目にしたら、悲しくなってきたよ……]
ココは画面をズームさせ、回収するべき遺体の姿を確認しようとする。
だが、焼かれてまっ黒に焦げた遺体は、写真のそれよりも数を増し、遺体の上にさらに遺体が積み重なった状態であった。
その状況は、左手に見える水道橋までずらりと石垣のように続き、まだ新しい遺体からは、まだ煙が燻っている、そんな有様なのだ。
「ココ……変わろうか?」
[橋の上には見張りがいるし、お兄ちゃんのシ式じゃすぐ見つかるよ]
「……」
すぅ、と息を吸い込む音が、無線を通じて隆義の耳に届く。
ココは深呼吸をして気を落ち着かせると、シ式に積んだ備品から手袋を取り出し、装着を始めた。
[ワイヤーカッターちょうだい]
「解った」
シ式が手渡したのは、これもまたジャグリオンとシ式が持つのに丁度良い大きさの、巨大なハサミだ。
きゅーちゃんは西区の動きを読むのに集中し、今は支援ができない。
[あいちゃんの情報のおかげで、遺体の特徴は解るから──。ボクが回収したら、収容はお願いするよー]
「了解。ココ、気をつけて」
[任せて]
光学迷彩、起動。
青いジャグリオンの姿が透明化し、闇に溶けた。
最初のコメントを投稿しよう!