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「機体用って……シ式に手袋すんの?」
「そうそう。ジャグリオン用の作業用手袋が、シ式にもそのまま使えるよー。あと、自然のライフサイクルを甘く見ちゃダメだよ。ハエの他にも、アリとかゴキブリとかネズミ、それにカラスとかが、すぐに食べに来るんだから」
隆義は内心、回収するべき遺体が原型を留めていないであろう事を予想し、少し気が滅入る気がした。
「……図鑑の人体解剖図は沢山見たけど、ホラー映画は苦手だ」
「ひどい場合は食べられた所と腐った所から体が千切れちゃうかも。それでも英子ちゃんのパパだし、できるだけそうならないように頑張ってみるけど……」
心の声のトーンも今回ばかりは低めだ。その心の内は──もし下手な事をして遺体を傷付けたら、英子にどう言えば良いのだろうかと思案している様子だった。
「タカ坊よぅ」
今度は義辰からだ。
隆義は、目の前に差し出されたスマホを受け取る。
画面の中には、母・日向の姿が映り続けていた。
[隆義、後で会いに行くけど無理しなさんなよ……。今私が戦うな言うても、あんた聞かんじゃろ。じゃけど、その事で後で話があるけぇね]
「うん──。解った」
[それじゃあ切るね]
困った様子の母の顔は、唐突に「ピロン♪」という電子音と共に消える。
そして画面は一泊の間を置いて、スマホのホーム画面へと移行した。
「後でお母さんが来るの?」
「あぁ……。そうみたいだ」
隆義はため息をつきながら、スマホを持ち主である心に返す。
果たして何を言われるのか、と、隆義のテンションはさらに落ち、頭は地面に項垂れる。
「たかよしのおかあちゃん、しんぱいしとるだけじゃけぇ……」
と、話の為に今まで黙っていたきゅーちゃんにフォローを入れられながら、地面に向かって項垂れた首は再び持ち上げられた。
「あぁ、そうだ──博士」
頭を切り替えよう。そう思いながら隆義は声を上げる。
「何だ?」
「機体用の手袋って、どこに置いてますか?」
「インディア中隊を金輪島に送るのにゴムボート出したろ? そいつと同じコンテナの中だ」
「ありがとうございます」
今は、やるべき事に集中する。
隆義は促すように心の肩にぽんと手を置く。
「何さ?」
「ハッチ閉めてコンテナの所に行く」
「んー、わかったよー」
心はすぐにハッチの縁から地面に飛び降りると、自分の機体に向かう。
隆義はその後姿を見送った。
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