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目的地までは、川に沿ってまだまだ進む必要があるのだ。
隆義も、敵の目を気にしつつ、青いジャグリオンの後に続いた。
街は夜の闇が広がると共に、人が学校の敷地内に押しやられている。
そんな光景を──隆義たちが動いている場所のほぼ反対側、広島市の西側から睨む一団の姿があった。
「いよいよだな……」
広島市を一望する三滝山に張られた陣。
その中に鎮座する巨大な白い鎧武者の下で、夕凪 長信は静かに呟く。
後ろでは、頭を深々と下げた白装束の集団に対し、神子の灯(あかり)が大幣を手に、お祓いをしている様子だ。
「罪ー穢れー祓いー給えー、清めー給えー」
最後の締めに、灯りは幣を天に放るように大きく上へ振り上げ──
「願わくば我らの守護者たちに討たれし魂が、神の真実の道に帰依せん事を──」
「聖意・入魂ッ!」
──集団が手持ちの武器、槍を、弓を、同じく天に掲げる。
これにより丁度、儀式は終わったようだ。
様子を確認した長信は、その鋭い目を、街から自らの部下たる白装束たちに向ける。
「各々、守衛隊は機体に、各歩兵隊にあってもトラックへ搭乗せよ。目標は眼下に見える西区大芝、大宮の解放! 敵はこちらよりも数が多いが、兵力の密度を高めこれに対抗する!」
「「御意ッ!」」
「我、夕凪 長信と、この白き黎明の機士が先陣を切る──! 守衛隊は我に続け!」
「御意ッ! 守衛隊、続きます!」
鶴の一声。地面に伸びたリフトに手をかけた長信は、全高六メートルの白い鎧武者のコクピットへと昇って行く。瞬く間にそこへ辿り着いた後は、シートに背中から飛び込み、機体の起動を始めるだけだ。
ガスタービン始動準備・スタートモーター作動。
ガス供給弁コックオフ、エンジン回転数とエア流入計を確認。
ガス・流入エア混合気が発火最適濃度に到達。ガスタービンエンジン、イグニッション。
エンジン回転数増加を確認後、スタートモーターをオフ。発電機からの電力供給が始まり、ここで機体各システム起動──。
それと同時に──鎧武者の目が、ぎらりと赤く輝いた。
「黎明の機士、村正──。出陣するぞ!」
沈黙を破り、それは三滝山から大きく飛び上がる。
その轟音は遠く離れた隆義の耳にも届く。
「……飛行機?」
隆義は思わず、そう口にした。
轟いてきた轟音は、ジェットエンジンの音に非常によく似ていたからだ。
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