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「どうして」
それだけ言うのがやっとだった。
僕は嗚咽を漏らして泣いていた。
『どうして』と小さく繰り返しながら。
「雪弥」
三年ぶりに名前を呼ばれて、僕の心は決壊した。
「嫌い、だよ、隼人なんて」
「雪弥」
「なんできたの、嫌い、嫌い、隼人なんか」
子供のように泣きじゃくったら、座ったままの僕の頭を、隼人が抱きしめた。
「ごめん。辛い嘘をつかせた。けど、もういいんだ」
「良くない。僕がいると、君の邪魔になる」
「いいんだ。もう平気だし……そもそも最初から、嘘なんていらなかったんだ。俺にはプロで書くことより、雪弥の方が、大切なんだから」
「でも」
隼人がテーブルの上を眺めたのが分かった。
秘密が見つかったようで、なんとなく後ろめたかった。
「ずっと、ここで読んでくれてたのか。三年もの間、別れた男の書いた本なんか」
僕は俯いて、ただ涙を流した。
「雪弥」
その場に跪いて、僕の顔を覗き込んだ隼人が、言った。
「もし、まだ俺を好きでいてくれるなら」
瞳は揺らがない。三年ぶりにみる生身の隼人は、やはり相変わらず美しい。
「もしそうなら、もう一度」
『付き合ってくれないか』
待ってたよ。ずっと、待ってたよ。
この白いカフェ、白い席で。
君が来て、そう言ってくれるのを。
待ってたよ。
ずっとずっと、大好きな隼人。
僕はボロボロ涙を零しながら、何度も頷いた。
ふわり、髪を撫でられて。
もう一度抱きしめられる。
「待たせてごめん」
彼の呟いた言葉は、雪のように心に染み込んで、僕の全てを満たしていった。
いつものカフェ、例えば明日。
そんなありえない未来は。
なんども願った未来は。
こうして二人のもとへ訪れたのである。
END
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