序章

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序章

いつものカフェ、白い木造りのテーブル。 席について、雑誌を置いた。 表紙には、よく見知った顔。 今ではすっかり有名人になった昔の恋人。宝井隼人。 女性誌の表紙まで飾る様になったのか。生意気だ。 本当に生意気な顔をしている。 勝気で強気で俺様でイケメンで嫌になるくらい上からで。 そんなところも好きだった。 大好きだった。 彼も、彼の書く文章も。 あんな俺様な性格なのに驚く程ナイーブできめ細かい、書いている人間の優しさが滲み出る文章。 読んでいると思わず泣きたくなってしまう。 一生懸命な叫びに。そこら中にまき散らされた優しさに。繊細さに。 恐れなくていい。そんなに一生懸命、頑張らなくていい。 君の気持ちは伝わってるよ。大丈夫。 僕は君が大好きだよ。 そんな風に伝えたくなる。 彼の文章が、好きだった。 彼のことが、大好きだった。 彼の四冊目の新刊を手にして、僕は小さく溜息を落とす。 白い表紙に描かれた細い線は、誰かの小指に繋がっている。 『約束』 表紙にはそう記されている。 僕はふと、三年前の自分の言葉を思いだした。 『隼人の新刊出たら、このカフェで読むね』 そう、約束した。 彼は覚えていないだろうけど。 嫌そうな顔で、『わざわざカフェで読まなくてもいいだろ』そんな風に言った彼。 元気にしているだろうか。きっと今も、勝気で強気な笑顔で、全ての仕事や人をなぎ倒しているのだろう。 想い描けば、こんなにも懐かしい。 懐かしい。懐かしいなぁ。 もう二度と、彼と僕が会うことはないけれど。 例えば明日、このカフェで、偶然顔を合わせる、なんてことは起きないだろうか。 三年前の嘘に気付いて、迎えに来てくれたり、しないだろうか。 僕は今日も待っている。 約束もしていない。 気づくわけない。 再会できるわけない。 なのに、このカフェで。 再び君に会えるのを、待ってる。 待ってるんだ。
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