海を彷徨うもの

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「それで、その光りがどんどんとこちらに近づいてくるんですな。よく見ればそれは一艘の船だった・・・。だがその船がどうもおかしいんです。漁に使う船とは明らかに違う。よく見れば船上には木でしつらえた屋形があり、それを囲むように四辺に小さな鳥居が立っとるんです・・・。」 「渡海船だ・・・。」 重塚はぼそりとつぶやいた。 船の格好が文献の記述と符号するのだ。 「それだけでなく、読経するような声が船から聞こえるんです。みるみるうちにその船は寄ってくる。おれは固まったまま成り行きを眺めるばかりでした・・・。そして何故か知らんが、うちの船のエンジンがかからなくなった。そうするうちに二つの船は横付けになったんです。」 「・・・。」 「息を止めてじっとその船を眺めてました。するとその屋形の壁の一画が、ばりばりと中から押し破られたんです。何事かと思い見てたんですが、暗い屋形の中から何かが這い出してきたんだ・・・。」 その、這い出してきたものは僧侶が身につける衣装である袈裟を着ていたという。 「でもそれは坊さんなんかではなかった・・・。旦那さんは髑髏(しゃれこうべ)を見た事はありますか?いえ、おれだって見た事はない。その時が初めてです。肉のない骸骨が袈裟を着て誌公帽子を被って、ずりり、ずりり、と屋形から出てきたんだ。」 「まさか骸骨が動く筈は無い・・・。見間違いではないので?」 「いや、あれが見間違いのはずない。親父も見ていたんですから・・・。暗い中でさらに目を凝らしていたら分かったんです。そいつは着ている袈裟の上から縄で縛られていた。しかも、その縄にはいくつもの石が括り付けられていたんですよ。後から考えてみればあれは重石だったんではないかと思います・・・。」
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