君が笑ってくれるなら

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◇ ◇ ◇ 馬鹿な私は、恐縮しながらも、またこうして彬さんに送って貰えたことに浮かれていた。 車中、彬さんは『テンパリングが』とか『時間が足りないと思ったら、最初に』とか、コンテストについてのレクチャーをし続けた。 その表情がとても柔らかかったから、もう一度やり直せるんじゃないか…… なんて、淡い期待を抱きそうになる。 「ほら、着いたぞ」 せいぜい十五分のドライブ。 「どうした、早く帰って寝ろ」 グズグズと降りるのをためらっていると、しびれを切らしたように促される。 「はい……じゃあ、お手数をおかけしました」 「うん」 「……なるべく早く帰って来て下さい」 「え?」 「私、待ってますから」 最後に精一杯の気持ちを伝えたつもりだったけど。 「コンテスト、頑張れよ」 彬さんがくれたのは、同僚としての言葉だけだった。
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