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雪と同化した日
いつか忘れられるなんて言う人間を僕は信用していない。
でも、色褪せていくように、記憶だって薄まっていくものだろうとは思う。
それはあくまでも、気にしないようになれるというだけであり、ふと目を向けてしまうと一瞬にして色を取り戻す。
数年立つと僕は彼女のことを気にしないで生活できるようになっていた。
いや、目の前の仕事の忙しさにかまけていただけなのかもしれない。
丁度仕事がひと段落した時期、僕はまた彼女に対する色を取り戻してしまったのだから。
彼女が出張のため東京まで来るという連絡が共通の友達から入ったのだ。
共通の友達は女の子であったため、出張の後はその子の家へ泊るという算段らしい。
そして久しぶりに会おうという単純明快な理由から、急遽僕も家へお邪魔することになった。
ただ顔が見られる、それだけが楽しみだった。
当日は3人でゲームをしたり、友人の作った夕食に舌鼓をうちながら、近況を報告しあったりした。その間もずっと僕は、彼女と同じ空間にいるという嬉しさに心を震わせていた。
夜も更けたせいか友人は先に眠ってしまい、後には彼女と僕が取り残された。
相変わらず他愛もない話をしていたにも関わらず、何故だか緊張と、予想通りドキドキが止まらなかった。
そのうち僕はどうにも切なさを抑えきれず、彼女へ抱き着いた。
彼女は驚いた様子もなく、静かに僕の頭を撫でた。
涙が出る暇もないほど感情が昂ぶり、ただただ幸せに浸った。
キスは許してもらえなかった。
しかし僕の気持ちを見透かすように、彼女は僕に身を預けてきた。
初めて僕が彼女と繋がった日だった。
今までの気持ちを開放するように、彼女を求めた。
幸せの余韻に浸りながら、涙を堪えた。
どうして僕じゃだめなんだろうか。自問自答を繰り替えしていた。
そして二人眠りについた。
次の日外には雪景色が広がっていた。
寒さが限界を突破したのだろう。
帰路につく途中で彼女は優しく僕にこう言った。
「本気になったら駄目だからね」
何も考えられなかった。
視界がぼやけ、ただ零れ落ちる一筋が冷えて頬を伝うだけ。
9年に幕を下ろすかのように、立ち尽くす僕を包み込むかのように、ふわふわと雪は落ちているだけだった。
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