退色

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世の中には、どうしたって思うようにならないことはあるのだ。 しかしながら、そんな状況でも神様は一閃の光を差し込んでくる。 手を差し伸べるがごとく、いや、救いを期待させるように。 約9年。 中学2年生の時に彼女に対し恋心を抱いて以来、9年間心に桃色の楔が打ち込まれている。 多分一生抜けることのない、あまりに深くまで届いている楔。 だけれど僕は彼女に打ち込めない。刺さらない。 いや、2度刺さったと思ったことはあった。 が、抜け落ちてしまった挙句、今ではもう刺さることの無いという事実が残るのみ。 1度目は中学時代に恋に落ちてすぐの話。 もともと彼女は僕のことを唯一呼び捨てにする女の子だったが、席替えという転機を経て、急速度でさらに距離を縮めた。 授業中はお互い馬鹿にしあったり、与太話を繰り返したり、悪態をつきあったりした。 なんとなくだったけれど、二人ともそれが幸せであるように感じていたと思う。 そうした日常は僕らを恋人へと変化させた。 あまりにあっけなかったと言えばその通りであるが、終わりはもっとあっけなかった。 雪積る冬の日。下駄箱に入れられた一通の手紙を読み、僕の頭は真っ白になった。 「別れよう」というたった4文字と、彼女の名前。 僕は耐えられなかった。理由を聞くことすらできず中学生活に幕を下ろした。 不思議なことに2度目があった。 それは高校2年生の時。お互い別々の高校へと進学していたため、ほぼ関わりを持たなくなっていた。 実は、地元の夏祭りの時分は友達含め僕と彼女も集まっていたため、そこで唯一会話を交わしていたけれど他はからっきし。 夏祭りでは周りの要らない気遣いにより、二人きりでジュースを買いに行かされたことがあった。 何故だろう。付き合ってもない僕達は手を繋いでいた。 まだ好きでいてくれているのかな、なんて淡い期待を抱いて。 結果、夏祭りの数週間後に僕は彼女から告白を受け、天にも昇る気持ちで了承とした。 が、これまたあっさり別れを切り出されることとなる。 僕も多少は成長していたのか、理由を聞きだした。というか今度は聞かずにはいられなかった。 高校3年といえば受験がある。彼女もこれを理由に別れを告げてきたのだ。 一大イベントである受験を盾にされては手も足も、本音さえも出せなかった。 一人静かに涙を流した。
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