ある冬の日

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春、僕は県内の大学へと進学していた。 友達だってできたし、それなりに楽しい学生生活を送っていたと思う。 だけれど少し油断すると、彼女の事がちらっと心を掠めるし、夢に出てくる女の子はいつも決まって彼女その人だった。 もう忘れたくても忘れられない程、僕の恋心を肥大させる存在となっていた。 彼女はというと、県外の大学へと進学したみたいで、会おうとしてすぐに会いに行けるような距離ではない。 「距離が離れると心も離れる」と誰かが言っていたようであるが、実際その通り彼女は大学生活の中で別の男性と交際まで至っていた。 後々分かったことであるが、その彼とは大学卒業後も続いている程長く関係を築いており、やり場の無い悔しさを僕は募らせることとなる。 僕の心に光が差し込むこともあった。 色褪せた心に元の色を取り戻させるように、また苦しい思いをさせてくる。 それは帰省の時期、年末年始の時分に起こる。 続々と地元へと人が戻ってくるように、友達も彼女もひと時の安らぎを求めて帰ってくる。そうなると至極当然、皆で集まる機会ができる。 数人で食事と酒を嗜み、もう何次会であるかも分からなくなり、ちょうど朝日が昇るに時には睡魔に襲われ解散と、こういう流れだ。 皆が各々実家へと帰路につく中、僕と彼女だけは最後まで二人残るということが当たり前になっていた。 付き合ってもないのに、彼女は恋人すらいるのに、お互いがお互いを求めるように最後まで帰りたくないという気持ちを表していた。 二人でする会話は特別なものではなく、あまりに普通の会話だった。 しかし二人の雰囲気は、好きな相手に告白しようとドキドキしている人間と、それを察していながらもこれまたドキドキしている人間であるかの様だった。 ただ、その雰囲気を楽しんでいるようだった。 さらに彼女は、僕が自宅へと足を向けようとすると「途中まで送って行く」と言ってくれた。 あろうことか、またもや二人手を繋いで歩き始めた。 きっと僕も彼女もいつもよりゆっくり、ゆっくりと歩みを進めていた。 もっと一緒にいたいという心の声を体現するかのように。 彼女には交際中の彼がいるという事実から目を背け、一片の幸せに身を委ねていた。
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