姫はじめ

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アザミはそれまでの美しく鮮やかな着物を脱ぎ、黒衣を纏った般若面姿、謂わば陰となった。 だが、その美しさは以前にも増したように思う。 それは、きっと大切な人と一緒になれたからだろう。 アザミを慕い、彼を見つめる怪士の眼差しには唯一無二の愛を感じる。 羨ましいな。 マツバはふっと目を伏せた。 互いに気持ちが通じあっている事も当然ながら、常に相手の存在を近くに感じていられる二人が羨ましい。 マツバの想い人である西園寺は、客だ。 マツバが彼に会えるのは、彼がマツバを指名し蜂巣にいる僅かな間だけ。 会えない時間の方が断然長い。 仕方のない事なのだが、こうしてアザミや怪士の仲睦まじい姿を見ていると時々自分が男娼である事を呪いたくなってしまう。 こんな事考えたらいけない。 しずい邸の中に友人と呼べる者もいないマツバに、いつも良くしてくれているアザミや怪士に対して失礼だ。 そう思うのに、目の前に並ぶ二人が眩しければ眩しいほど自分の陰が際立って見えてきて、マツバを昏い気持ちにさせるのだった。
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