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「捜一(うち)も褒められたもんじゃないけど、サツチョウの派閥争いとか、マジでおっかなそうだもんね。でも、刑事部長なら俺らでもささやかな反抗? 嫌がらせはできるよ。あんまりイジメられたら教えて。五島さん、古賀部長のこと大っ嫌いだから」
「それは……心強い」
香は恋人で部下の頼もしい助言に声を立てて笑った。
古賀が刑事部の人間から嫌われているのは知っている。組対課も捜査課も生活安全課にも、彼を慕う刑事はいないだろう。古賀の資質もあるが、彼が警察庁からの出向組、というところが大きい。
S県警ではもともと、刑事部長までがノンキャリア警官の最高職だった。つまり、S県警採用の警察官は努力すれば刑事部長までは上り詰めることができた。その他の部長職は全て、警察庁からの出向、キャリア組が就いている。
しかし、数年前にS県警で最大最悪の不祥事があり、それを機に刑事部長職がキャリア組に挿げ替えられた。ノンキャリ組からすれば、聖域の刑事部トップをキャリアに奪われたのだから、どれだけ優秀な者が部長についても受け入れがたい。その上古賀は、典型的な保身大好き、出世命のザ・官僚で、部下に支持されるわけがなかった。
「あんまり古賀部長がウザかったら、たまには捜査会議に出るよう進言してみるよ。捜一の皆さんにつるし上げられるところを見てみたい」
「うわっ、香、陰険」
こわぁ、と言いながら井上も笑っていた。
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