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香は声を堪えるため、キスに熱中した。夢中になるあまり、どちらのものかわからない唾液が口の端から零れる。
井上の手淫が加速する。香も井上の手に自分の手を重ね、二人で扱き合った。ヌチュ、グチュ、と誤魔化しようのない音が立つが、もう二人は堪えられなかった。
香が触れてからはすぐだった。
「りょう……イ、く……んん」
「かおるっ……」
二人で一気に高め合い、そして同時に達した。井上が直前で紙を引き出し、受け止めてくれたので、ベッドも二人の服も汚れなかった。
「稜……以外と器用、だよね」
香はグッタリと井上にもたれかかった。事後らしくないセリフに、井上が笑う。井上も息が整っていないので、笑うのは苦しそうだった。
達してもしばらく熱が引かず、二人はだらしない格好のままもう少し抱き合った。本当は、いつまでもこうしていたい。
大好きな人の腕の中にいたい――。
「……換気はしとかないと、ヤバいかな」
今度は井上が香を笑わせた。香は井上の肩に額を擦りつけた。大好き――を込めて。
二人ともきっと、一晩中抱き合っていたかった。しかし事件は終わっていない。結局二人は五分もそうしていないで、手早く、けれど慎重に身支度を整え、別々に仮眠室を出ることにした。
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