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完全に捜査が手詰まりの中、香を悩ませるのはそれだけではなかった。刑事部長の古賀から日に何度も連絡がある。その内容はいつも同じだ。
城井は容疑者から外れたか、と遠回しに聞かれる。それはつまり、現職のS県警警察官は事件とは無関係だな、と聞かれているのであり、さらに大胆に意訳すると――他に容疑者を見つけろ、ということだった。
香はそれをノラリクラリとかわし続けたが、とうとう逃げ切れなくなった。本部に呼び出しを食らったのだ。捜査に進展がないことも、香を呼びつける格好の材料になった。
荒間署から県警本部へ向かう香は、助手席から車窓を眺めウンザリとため息を吐いた。
「大丈夫? 古賀部長、そんなに怒ってた?」
運転席から心配げな声が届く。香は微笑んで大好きな声の主に振り返った。
「怒ってるっていうか……ネチネチうるさいんだよね、あの人。もとから俺のこと気に入らないから。副本部長派の人だしね」
香を嫌う上層部は多いが、S県警内だと副本部長が最も香を目の敵にしている。その派閥に属する古賀は、上司に倣って香に辛くあたるのだ。
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