決裂

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「え? そう聞かれると……なんていうか、ちゃんと付き合ってたわけじゃないし……あの人、ほら、まぁ……結婚してるから……」 言い訳しようとすればするほど墓穴に飛び込んでいく。嘘は刑事の恋人には見抜かれるとわかっているのに、全て正直に白状する勇気はない。取り調べでわかりやすい嘘をつく容疑者の気持ちがわかった気がした。 井上の大きなため息が聞こえて竦み上がる。香は勇気を振り絞って井上に訴えた。 「今はほんっとうになんにもないからね! 部長からの電話に出なかったのも、稜に誤解されたくなかったからだから。事件解決したって、天ぷらなんか行かないよ、約束する」 井上は不満を露わに腕組みし、エレベーターの壁に寄りかかった。どうしてこんな時に限って誰も乗ってこないのか。 「天ぷらって……天丼屋じゃないよね? なんかカウンターに座って、揚げたてのやつが一串一串、皿に出てくるような店なんでしょ」 天ぷら屋の形態に拘る理由がわからず首を傾げる。 「たぶん、そうじゃないかな。でも、天ぷらじゃなくても部長とご飯食べに行ったりしない。稜が嫌がることなんかしたくないし……休みができたら稜と一緒にいたいよ、好きなだけ」 香は必死だった。井上と仲直り? したばかりなのだ。もう気まずさもわだかまりもご免だ。     
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