危険な香り

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危険な香り

窓の外は、夏の青空が眩しい。日差しが強くて、室内にいても香の色素の薄い瞳には刺激が強すぎる。 香は夏が嫌い、というか苦手だ。白人の血を引いているせいか、日焼けには弱い。日に焼けると真っ赤になってひどく痛むのだ。暑さも苦手だし、夏の暑さに浮かれる人々も得意ではない。 しかし、今年の夏は少し違った。今年は香も世間の人々に倣って、少々浮かれているせいだ。 今年の夏は、久しぶりに恋人がいる。それもとびきりイケてる恋人が――。 眩しい青空を眺めながら、夏の定番デートを思い描く。花火や夏祭り、それに海や涼しい高原でもいい。夏らしいデートを一つでも彼と――井上とできたらどんなに楽しいだろう。 と、恋する男は夢見がちだが、実際のところ井上とデートらしいデートができたのは、もう二週間は前だ。それから二人きりで会うどころか、顔を会わせるのも難しい日々が続いた。恋をしようがしまいが現実は常に厳しい。 やっと二人きりになれたのは昨日、ここ――S県警察本部庁舎の八階、小さな会議室だった。そこで二人は逢瀬の喜びに逆らえず、職場だというのに甘いキスを交わし――。     
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