見えない思い

1/39
250人が本棚に入れています
本棚に追加
/323ページ

見えない思い

県北部にある山間の産業廃棄物処理場で大量の人骨が発見された翌日、最初の遺体発見現場を管轄する荒間署に捜査本部が設置された。捜査一課三係と荒間署刑事課強行犯係、それに産廃処理場が暴力団傘下の企業であることから組織犯罪対策四課も加わった大規模な合同捜査本部で、管理官は香だ。荒間署での捜査本部を指揮するのは、香にとって三度目である。昨年の連続銃撃事件が二度目だが、奇しくもあの時とほぼ同じ布陣だった。 合同捜査本部が設置された翌日、つまり産廃処理場の家宅捜索の翌々日には、朝から第一回合同捜査会議が行われた。 荒間署四階にある第一会議室。荒間署での捜査本部はいつも、署内で一番大きいその部屋に設置される。香は会議室の前方、荒間署の署長や刑事課課長など数人の幹部が並んだ真ん中の席で、数十人の捜査員たちと向き合っていた。 以前と同じ景色と似た面子が眼前に広がるが、慣れた心地は一切しない。この席にいる時はいつも、ピンと張りつめた緊張感に包まれる。香だけではない。この部屋全体に緊迫した空気が満ちていた。 凶悪事件の捜査とは、追われる犯人側だけでなく、捜査する側もいつだって追いつめられたような緊迫感が付き物だ。     
/323ページ

最初のコメントを投稿しよう!